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世界はうつくしいと

蓼科から中央道をどんどん下って昨日東京へ戻りました。

猫の世話をして、さて、と仕事机に向かっても何故だか集中できない感じ。
そこで、ピカピカ光る月を見ながら深夜の代官山へ向かいました。
26時まで開いている本屋さんへ行って何万冊もの本の中をぶらぶら。気になる本を手に取ったり、懐かしい本を思わず座って読み始めたり。。。静かなひとりの時間を取り戻しました。
購入したのは村上春樹が選んで訳した世界のラブストーリー+書き下ろし短編の「恋しくて」ボリス•ヴィアン「うたかたの日々」そして大好きな詩人 長田 弘の「世界はうつくしいと」。
そして自分の部屋へ戻り月明かりの下で詩集を読みました。
今日は十五夜です。こんな詩をどうぞ。
Tate24
世界はうつくしいと
うつくしいものの話をしよう。
いつからだろう。ふと気がつくと、
うつくしいということばを、ためらわず
口にすることを、誰もしなくなった。
そうしてわたしたちの会話は貧しくなった。
うつくしいものをうつくしいと言おう。
風の匂いはうつくしいと。渓谷の
石を伝わってゆく流れはうつくしいと。
午後の草に落ちている雲の陰はうつくしいと。
遠くの低い山並みの静けさはうつくしいと。
きらめく川辺の光はうつくしいと。
おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。
行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。
花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。
雨の日の、家々の屋根の色はうつくしいと。
太い枝を空いっぱいにひろげる
晩秋の古寺の、大銀杏はうつくしいと。
冬がくるまえの、曇り日の、
南天の、小さな朱い実はうつくしいと。
コムラサキの、実のむらさきはうつくしいと。
過ぎてゆく季節はうつくしいと。
さらりと老いてゆく人の姿はうつくしいと。
一体、ニュースとよばれる日々の破片が、
わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。
あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。
うつくしいものをうつくしいと言おう。
幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。
シュロの枝を燃やして、灰にして、撒く。
何ひとつ永遠なんてなく、いつか
すべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。
「世界はうつくしいと」 長田 弘  みすず書房 より

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